モリアオガエルを食べるヤマカガシを観察する 千葉県の清澄寺

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千葉ツーリングの際に、鴨川市にある清澄寺(せいちょうじ)へ参拝した。本堂を正面に見て、左へ進むと池があり、このあたりはモリアオガエルの生息地である。であると断定的に書いたものの、私は今回の件で調べるまでモリアオガエルのことは知らなかった。モリアオガエルはアオガエル科のカエルで日本固有種。繁殖期が5~7月なので、鳴き声がたくさん聴こえていたのはオスの求愛の声だった。モリアオガエルは県指定天然記念物であり、清澄は千葉における彼らの生息地のなかでは代表的な地域とのこと。

ということで私がいるこの場所にはたくさんのモリアオガエルがいて、多くの鳴き声が聴こえる。しかしながら姿は見かけない。警戒心が強く、葉の裏などに隠れているのだろう。有名な生息地ではあるが、たくさんいるわけではないということ。

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そういった状況を踏まえつつその時に戻ると、池にはロープがかけられており、そこには「ヘビ注意」と書かれた紙がとれかけの状態ながらあった。ヘビ!私はヘビが好きなのだった。ただし好きといっても犬好きが犬を抱きしめたくなるそういう感情の好きではなく、好奇心の対象としての好きだ。大阪と東京でヘビを見たことない。したがって生まれ育った四国を離れてからヘビを見る機会は激減している。わざわざ注意書きしているのはヘビがたくさんいるからだろう、ワクワクしながら辺りを見渡す。とはいえヘビも警戒心が強いからそうタイミングよくは見つからないだろう、と思いながら池に目をやり、探す。当然、いない。山の中に入って探しまくったら見つかるかもしれんが、ヘビ探しが目的でここへ来たわけではないからな…と思いながら池の横を見ると。ヘビおるやないか。体長が1mぐらいあり、けっこう大きい。ヘビが好きですと言っておきながら、これの名前がわからなかった。帰宅して調べると、ヤマカガシだった。アオダイショウやマムシなどとともに、日本で多く生息している個体やが、しかし高知や香川では見かけなかった気がする。カエルが大好物とのことなので、清澄にはモリアオガエルとセットで多くのヤマカガシもいるのだろう。

ヤマカガシと私との距離は3mぐらい。ヤマカガシが警戒すればすぐに逃げるだろうからじっと動かずに見ると、なにやら頭を上下に動かしている。私は視力が悪いのでよく見えないのやが、頭が膨らんでいるようにみえる。脱皮しているのではないか、と思った。

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逃げられないように、ゆっくりゆっくり近づく。ヤマカガシは熱心に頭を動かしているので、こちらに気づいていないのか、気づいてはいるが、巨大な敵から逃げるよりその動作に熱中することを選んだのか。それらの事情を人間である私が判断することはできないが、うれしいことにヤマカガシは逃げない。彼(彼女)も日本男児、あるいは大和撫子なのだった。彼(彼女)との距離は1mぐらい。これほど近づけば何をしているのかが理解できた。脱皮ではなく、モリアオガエルに噛みついているのだった。私にとってはたいへんな僥倖で、ヘビがごはんを食べている場面を見ることなどない。むちゃくちゃラッキーやなと興奮しながらもしっかりと観察し、しつつ写真も撮る。おもしろいことに、ヤマカガシはモリアオガエルをすぐには飲み込まない。たぶん10分間ほどの間、噛みついて上下に揺すっていた。これには2つの理由が考えられる。まず通常時の口のサイズよりも大きな獲物を食べるので、すぐには飲み込めない。もうひとつは、獲物の息の根を止めてから飲み込む。両方かもしれないが、私は殺していたのではないかと考える。なぜなら5㎝程度のカエルを自分で捕まえてみるとわかるが、彼らの足で蹴る力、握った手から逃げようとする力はけっこう強い。生きたまま飲み込めば、喉あたりで暴れられて食道が傷つき、結果としてヘビが死んでしまうケースも考えられる。したがってまずは獲物を殺すのではないか。私はヤマカガシにもっと近づき、30㎝ぐらいの距離間になった。ここまで近づけばよく見える。食事中でない野生のヘビをこんな至近距離で長時間みることなど不可能で、ヘビが逃げるか闘いになるかのどちらかになる。これほど近いと、捕まえてみるかというスケベ根性も出てくるが、それはしない。なぜならいかなる動物も、食事を邪魔されれば激怒するからだ。私だって食事中に邪魔されれば腹立つ。相手の尊厳を守りたいと思うならば、食事を邪魔することなどしてはいけない。食べることは、生きること。本来なら、ヤマカガシにとって人間が近くにいるなんて容認できる状況ではないが、それでも逃げずにモリアオガエルを食べようとしている。たぶん、食べながら逃げるのは無理なのだろう。食べるか、逃げるかの二択で、このヤマカガシは食べることを選択した。私はその決断に感動し、やはり生きる者にとって食べることは大切な行為だなと思った。近くでみていると、100%食べることに集中しているヤマカガシの姿には感動させられる。

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ヤマカガシは噛みつきから、徐々に飲み込んでいった。飲み込む時間はそれなりに早い。口のところではモリアオガエルの大きさぐらい膨らんでいたが、喉を過ぎたあたりからは、ほぼ膨らんでいなかった。そのあたりは食道やと思うが、硬いみたいだ。ちなみに写真を見ると、モリアオガエルを後ろから食べているが、これはたまたまではなくヤマカガシはカエルを食べる際は必ず後ろから食べるとのこと。口の先から10㎝ぐらい飲み込んだあたりで、おもしろいことにヘビが舌を出すいつもの動作をしはじめた。ヘビが舌をチョロチョロするなんて忘れていたが、獲物を飲み込んでいるときに舌は出せない。ここへきて、出会ってから15分ほど経つと思うが、やっと彼(彼女)が私を見てくれた。飲み込んでしまえば確実に腹に収まるので、ひと安心したのだろう。私のほうに体を向いてはくれないが、ずっと私を見ている。その間に、彼(彼女)がいろいろと考えているのは目を見ればわかる。私は写真を撮る動作以外のことはしない。これまた生き物にとって、食後すぐに他者からウザい行為をされれば不快だからだ。しかし食べ終わった後は落ち着くので攻撃はしてこないだろう。雰囲気からも、そういう感じはしない。とはいっても至近距離なので、突然攻撃されればよけられない可能性があるので、すこしだけやが警戒する。帰宅後に調べて知ったが、ヤマカガシは毒蛇だった。しかもマムシより3倍も強い毒をもっているという。

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  カエルはこのあたりにいる

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  舌が見える

 

舌を出すようになってから1~2分の間、ヤマカガシと私はずっと見つめ合っていた。この世界には2人しかいないんじゃないかと錯覚しそうになったが、まさしくそれは錯覚で、モリアオガエルの鳴き声が聴こえる。2人っきりじゃあない。恋の終わりは突然やってくる。意を決したようにヤマカガシは向こう側へ進んでいった。そこを写真に収め、これ以上、彼(彼女)の邪魔にはなりたくないと思ったので、私も本堂へ戻っていった…。ヤマカガシの気性はおとなしいとのこと。同じ毒ヘビでもマムシは気が荒く、私は北海道の松前の北に位置する山の中で、マムシと喧嘩になったことがある。ちなみに池の注意書きに「ヘビ注意」と書いてあるが、清澄寺の関係者は「毒ヘビ注意」に書き直すべきだ。ヘビしか書いてなければ、私みたいなアホがふざけて近づいて噛まれるかもしれんだろう。

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どんな出会いがあるかわからない、これがツーリングの醍醐味である。おもしろい場面に遭遇できてすごくうれしい。かつて私は桂林という、中国の奥地の仙人が棲んでいそうな場所へ行ったときに、ヘビとカエルを食べた。ヘビの味と食感はイカで、カエルは美味しくはないが、高タンパク質やなと感じた。10年前のことやが、あのときに食べた2種類の生き物が、食べる食べられるのドラマをみせてくれたのは偶然ではあるが不思議である。ヤマカガシの食べる姿を見て感動させられたのは、ヤマカガシ、むちゃくちゃおいしそうにごはんを食べるのだった。それをみることで、食について考えさせられた。バイクも千葉もお寺もヘビもカエルも素敵だなと思える出来事でした。