東北ツーリング② …一関~平泉~野辺地~むつ~青森市…

5月の岩手は当然、寒い。道の駅「厳美渓」で震えていると、地元のおじいさんが私に近寄ってきて、「これをあげるよ。見てて可哀そうだよ」とビニール袋をくれた。これはたまたまではなく、東北の人はよく言われるとおり、本当に親切な人が多いのだった。おじいさんは同情しているのでなく、私を本気で心配していた。こちらは好きで野宿をしていて、かつてはさんざん野宿をしてきたので寒いぐらいでは音を上げないが、他人様に心配かけさせてしまったのは申し訳ない。ちなみに今はもう、野宿はしません。

道の駅で50代ぐらいの男性と話をすると、京都から車で来たという。被災地を見にきたのだった。「自分には何もやれることはないけど、現地に来て、何か物を買ったりしてお金を使うことぐらいしか自分にはできないから…」と彼に言われ、私は感動した。これ以降、地震などの被害に遭った地域には、募金などでなく、現地に行ってお金を落とすのが私のできる行動だと考えるようになった。名も知らぬ彼から大切なことを学んだ。

私が泊まった厳美渓はとても素晴らしい景観で、さすがは東北やなと思った。有名な観光地らしい。

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ずっと行きたいと思っていた平泉は、期待を裏切らずたいへん魅力のあるお寺であった。いや、現在は寺がメインになっているが、ここは奥州藤原氏の住む都市だったので、全体を感じたい。義経が死んだといわれている場所から北上川を眺めると、あまりの美しさに感動し、しばらく動けなかった。東京から遠いので難しいが、平泉にはまた訪れたい。

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平泉を出発し、奥州街道をひたすら北上する。盛岡を越え、青森に入ると南から一戸、二戸、三戸…と続いていくのはおもしろかった。驚いたのは、五戸あたりの真っ暗な奥州街道を走っていると、体感温度がぐんと下がった。近くではないが、ちょうど西には十和田湖があり、このあたりを境に気温が変わるのかもしれない。七戸あたりに着いたときは18時か19時ぐらいになっていて、ガソリンの残量が少なくなっていた。ただ幹線道路なのでどこかにガソリンスタンドがあるだろうと思っていたが、これは都会の感覚で、あるにはあるが、閉店時間が早いのだった。ということで目的地の青森市まで走れない。田舎では早めに給油せねばならないことをうっかり忘れていた。野辺地まで走り、警察署があったので、ガソリンを売ってくれませんかとお願いすると、「ここは警察署なのでガソリンは売れません」。そりゃそうだ。たしか市内のガソリンスタンドはもう閉まっているとも言われたと思う。では公園で野宿するので、近場の公園を教えてくださいと言うと、25歳前後の若い警官に、

「ぼくも東京に行ったことありますが、田舎と東京は違うのです。公園で野宿なんてしてたら住民に通報されるので、それはやめてください」

通報も大事やが、雨も降っていたし、その状況下の青森で野宿するのはさすがに無理かなとも思ったので、たしかコンビニで宿を教えてもらって「ビジネスランド 豊楽」という宿で泊まる。風呂場が広く、部屋も清潔で久しぶりにきちんと眠ることができ、疲れがとれた。10時ぐらいに野辺地で給油し、下北半島を走る。

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下北半島も天気悪く、運転を愉しむ状況でなかったのは残念だった。100kmほど走るとむつ市内に入り、まずは100円ショップに行き、Tシャツを5枚ほど買って重ね着する。むちゃくちゃ寒いのだった。そしてホームセンターに行き、カッパを買う。これで一応は雨の中も走れる体制にはなった。

目的地は恐山である。市内から5㎞ほど走った山の中で、バイクが突如として「バンッ!」と音を出し、走らなくなった。驚くことにチェーンが切れた。今、私がいる場所は下北半島の先っちょで、つまり本州最北端である。故障する場所としては最悪だろう。それに加えてゴールデンウイークは多くのバイク屋が休みである。とどめは雨が降っている。あのときの絶望感は今でもよ~く覚えている。すべて投げ出したい気分になるが、そういうわけにはいかないので、私にできることはバイクを押して市内に戻り、バイク屋を探すこと。通行人にバイク屋を教えてもらい、そこへ行くと、ありがたいことに営業している。「営業中のバイク屋を見つける」という第一段階はクリアした。第二段階は、そのバイク屋にチェーンがあるかどうかである。事情を説明し、バイクを見せて、バイク屋の人が近所のバイク屋?に電話し確認すると、なんと中古のチェーンがあるという。バイクがぶっ壊れたときは自分の運の悪さを呪ったが、なぜか後々はうまく事が運んだ。チェーンを交換してもらい、バイクは復活する。最後は、代金はいくらになるのかなと思った。というのも私には選択肢がなく、追い込まれている。つまりいくらでもふっかけれるわけだ。すると中古のチェーンと整備費用で正しい金額を請求されてビックリした。東北の人やから、足元みて高額請求などしないのだろう。むつ市内にある「橋本自転車店」は素晴らしいお店です。私にとっては恩人だ。もしバイク屋が見つからなかったら、バイクを置いて電車で青森市まで行き新幹線で帰京し、連休明けにむつを再訪し、バイクを直して配送で東京に戻すという、大変な手間と金がかかる行為をしなければならなかった。本当にありがたい。店にはおじさんと20代ぐらいの若い人がいて、後者に冬の恐山の道路は深い雪に覆われるので、スノーモービルで遊びまくると言われ、写真を見せてくれた。冬のむつの生活は大変だろうが、スノーモービルは羨ましい。

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バイクの故障という恐ろしい試練を乗り越え、恐山へ再び向かう。何が楽しくて雨の青森を走らねばならんのかとも思うが、天候はどうしようもない。恐山は霊界と繋がっているといわれているが、たしかに怖い雰囲気がある。夜に一人でここに来るのは無理やと思わせる土地だった。この地から遠い東京で住んでいれば、再び訪れる機会を作るのは難しい。

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15時30分ぐらいに恐山を出発し、130㎞ほど離れた青森市に向かう。このときも雨が降っていたので、どうしようもないこととはいえ、当時の自分は根性あるなと振り返って思う。今はもう、雨の中をバイクで走るのはキツい。せっかく下北半島を走っているのに、雨で楽しめなかったのは哀しい。青森市内で宿泊。